2019年には訪日観光客は3000万人を突破し、順調に思えましたが、世界で蔓延したコロナにより日本に来る観光客は激減してしまいます。しかし、2022年10月11日に規制緩和により外国人訪問客の受け入れが再開しました。
これによりインバウンドが増加していけば通訳案内士の仕事も増えていくでしょう。今後ガイドと訪日観光客によるどんなドラマが繰り広げられるか?さまざまな素晴らしい出会を期待してしまいます。ガイドは外国人と交流したい気持ちが強い方ほど魅力的な仕事です。
この記事では通訳案内士を目指している方や興味がある方を少しででも後押しできるような、おすすめ本を紹介していきます。
通訳案内士という仕事について
資格の名前を知っていても具体的に何をしているか説明できる人は少ないでしょう。
全国通訳案内士は通訳ガイドと呼ばれることも多い国家資格。語学だけではなく、地理・日本史はもちろんのこと、産業・経済・政治、文化といった日本に対して深い教養がないと合格することはできません。
2021年の合格率は9.1%となかなかの狭き門です。
通訳案内士の仕事は「人としての総合力」が問われる仕事です。日本に訪れた外国人とコミュニケーションを取り、満足いくガイドをすることは容易ではないです。日本独特な価値観や文化、食事を理解してもらえるよう努力をしなければいけません。
他にも「仕事として生活できるのか?」「どうやってガイドする外国人を見つけるのか?」など、疑問が山のようにでてくるでしょう。
補足ですが、2018年の通訳案内士制度の改正で無資格でも金銭を得て通訳案内業ができるようになりました。入口が広がったおかげで、とりあえず外国人と交流してみて自分に向いているか確かめてから、通訳案内士を目指す方も増えています。
通訳案内士のおすすめ本:書籍5選
1)通訳ガイドというおしごと
著:島崎秀定(アルク・2016年)
要約
日本は観光大国の道を進んでいます。外国人観光客が増加するにしたがい注目されているのが「通訳ガイド」。花形な仕事に見えますが、現状は収入に関しては満足できるレベルではありません。通訳ガイドとして生計を立てている著者が、稼ぐ秘訣や心構えをレクチャーしてくれます。
批評
通訳ガイド試験に合格はしたけど、それで生計立てられない方が多い世界。通訳案内士の資格を取っただけでは稼ぐことができません。どうやって仕事を得るのか?仕事の取り方からガイドの段取り、進め方など順を追って説明されています。合格をしても年に数回の仕事しかなかったら、夢も希望もありません。ノウハウなどは個人や仲間内での限定情報になりやすいものですが、本書はしっかり公開しています。
実績のある方が書いた本だからこそ、読む方も学ぶことがたくさんありました。本作の著者はガイドを初めて7年目で、なんとか生活できるレベルまで辿りついたみたいです。そのように実績のある方の本なので読んでいても共感できる部分が多かったです。「通訳ガイドは旅行業であり、添乗業務であり、広い意義でサービス業」の部分がとても心に残りました。おもてなしの精神が必要なのでしょうね。2章目からら本番で「ガイド技術を磨く10のコツ」や「添乗技術を上げる12の秘訣」はさすがとしかいいようがなかったです。通訳案内士にとっての教科書みたいな存在になりうると感想を持ちました。
英語だけで観光地を紹介しているだけではダメだと気づかされます。相手が何を望んでいるかを理解する能力が大切です。コミュニケーションの取り方など気づかされる項目だらけで勉強になります。通訳案内士を目指す方、合格をしたはいいけど、何をしたらいいのか分からない方にはぜひ読んでもらいたいと感じました。この業界に興味ある方が最初に読む1冊としておすすめです。
2)プロ通訳案内士が教える―はじめてのボランティア英語ガイド
著:江口裕之/著:根岸 正(ディーエイチシー・2016年)
販売終了(メルカリ等で検索)
要約
本物の英語力を身につけたい方のための英語学校「CEL英語ソリューションズ」の講師陣による、はじめてのボランティア英語ガイド。毎年200名以上の通訳案内士を合格させているノウハウが詰まっています。プロにしかできないクオリティの高さは目を見張るものがあります。
批評
この本は通訳案内士に関する本ではありません。どちらかというと、ボランティアで役立つフレーズを教えてくれる本です。英語を基礎から覚えたいのではなく、フレーズとして使用できる実践的な内容。観光名所の説明を暗記して簡単な単語とシンプルな構文でSTEP毎に効率よく学べるのが特徴。訪日観光客は英語ではカバーできない非英語圏のアジア系外国人が増えてきています。その方向けにシンプルな構文は非常に役立ちます。
はじめてのというタイトル通り、簡単な英語で観光名所を紹介することに特化しています。「浅草寺」「明治神宮」「富岡八幡宮」「鎌倉大仏」など外国人観光客にとっては最高の観光名所が掲載されています。一つ残念なのは東京を中心とした関東だけで関西がなかったことです。内容が良い本なので関西版も出版されることを期待してしまいます。英語のフレーズを繰り返して学ぶことができ、CD付きなのでじっくり練習可能きるのはありがたいところ。英語初心者でも丸暗記すれば観光名所の説明はできそうです。そう感じてしまうほどテキストがシンプルでした。
新型コロナの水際対策が2022年10月11日から大幅に緩和されました。コロナ以前の規模で外国人旅行客が増えています。本職の通訳案内士だけでは対処しきれないでしょう。そんなときに観光ボランティアがいると観光客の方々も楽しめると思います。ここでやりがいを感じたら、通訳案内士の道も見えてくるかもしれません。 プロの通訳案内士もこの本を読むことで学べることも多々あると思います。
3)指名が途切れない通訳ガイドの英語で日本紹介アイデアブック
著:島崎 秀定(アルク・2020年)
要約
通訳ガイドが絶対に知っておきたい、日本案内の鉄板ネタ100。機質な情報ではなく、情報を面白く伝えることで指名が途切れない通訳ガイドになれます。対象は英語中級から(英検2級/TOEIC600点~)です。無料ダウンロード音声もあり、本で紹介されているトーク例をヒアリングできます。
批評
最初の「説明の基本10のポイント」で1番目の「まず興味を持ってもらう」を読むだけで著者が人気のある通訳案内士だとすぐ分かります。チャプターは100ファイルあり、最初に日本語で説明しています。次に説明ポイントがあり、英文の掲載。例えば「城」では外国の城との比較をしています。日本の城は敵に石を投げつけていましたが、外国の城では油をかけていたというような情報を説明のポイントとして教えてくれます。
感想ですが「プロ通訳案内士が教える はじめてのボランティア英語ガイド」と似た感じの本と印象を持ちました。ただこちらは日本全国の観光名所が網羅されていました。英語の言い回しも難しくなく、分かりにくい単語には語句説明もあるので、いちいちスマホで検索する手間がありませんでした。語学の本は何度も繰り返して読んで覚えるのが基本ですが、本書だけで完結するのはありがたいと思いました。寺や神社など堅苦しいものばかりではなく、「アニメ」「食品サンプル」「満員電車」など外国人が興味をもつジャンルも紹介されていました。この1冊でほとんどの訪日観光客に対応できるのではないでしょうか。
外国観光客は勉強するため日本に来ているわけではありません。「フリ、説明、オチ」を意識して楽しませることをコンセプトとしています。日本の文化・歴史に関してもしっかり説明されているので、日本の歴史や地理を学ぶのにも有用です。通訳ガイドを目指している方にはぜひ手に取ってもらいたい良書。とてもおすすめです。
4)英語でガイド!外国人がいちばん知りたい和食のお作法
監:植田一三/著:上田敏子(Jリサーチ出版・2018年)
要約
和食は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。世界でもっとも有名な料理の一つでしょう。海外の料理を変化させた和食も多くあり外国人の中には懐かしく感じる料理もあります。本書では外国人観光客の楽しみである和食グルメの基本的な知識やマナーを英語で理解することができます。
批評
英語の勉強はもちろんのこと、和食のマナーや作法にも使えます。和食の紹介ですが、懐石料理屋や天ぷら、寿司といったコテコテの和食だけはなく、ラーメン屋や焼き鳥、居酒屋など私たち日本人にとって定番も載っています。イラストやカラーが多く、料理写真も載っており、見るだけでお腹が空いてくるので空腹のときは要注意。
外国人の疑問に対してどう返答をすれば困るときがあると思いますが、本書でじゃ「Q&A」で外国人に質問をされても咄嗟の返しができます。また吹き出しや欄外の「和食&マナーワンポイントレクチャー」や「和食マナークイズ」が秀逸でした。ありそうでなかったジャンルの本で希少価値が高いと感じました。「麺のすすり方教室」「TKGをめぐる熱い論争」など興味を引くネタが満載でした。外国人に教えてあげると喜びそうな内容なので、自分の鉄板ネタに昇華させたくなります。イラストや写真が多いので来日した方にプレゼントしても喜ばれるのではないでしょうか。
外国観光をするとき、観光はもちろんですが、グルメを味わうことが最大の喜びかもしれません。郷に入っては郷に従えという言葉があるように、日本に来たら日本の作法を実践したいと考える外国人もいます。一つのカルチャーとして楽しいひとときなのでしょう。本書は和食グルメに興味ある外国人を満足させることができます。アイディア満載の良書です。
5)駆け出し通訳ガイドの奮闘記
著:秋元伸子(2018年、個人のkindle出版)
要約
家族のために働いていた著者は子育てが終わったとき、長年の夢であった「通訳案内士」の夢を実現しようとしました。日本の良さを再確認しつつ楽しく勉強をして見事合格!最初のガイドはカナダの3人家族でした。ここから夢の通訳案内士がスタートしたのです。
批評
海外個人客(FIT)を専門にしている著者がガイドで知り合った8組とのエピソードを紹介しています。最初と後半ではスキルの違いが顕著で経験値がUPしていく姿はまるでロールプレイングゲームのような世界にも思えてしまうでしょう。新人目線で書かれているガイドポイントもベテランとは違った視点で考えられています。人と人のハートフルな体験ができます。
読み終わった後は清々しい気分になってしまいました。夢は誰にでもあります。そして叶えることができると実感させられました。ずっとやりたかった仕事を何十年越しに適えた著者の通訳ガイドは本当に楽しそうでした。もちろん順風満帆にことが進むだけではなく、苦悩もあったようです。人気通訳案内士ではない新人なので、自分の理想通りに行かないこともあったでしょう。それも包み隠さず書かれており、だからこそリアリティを感じられました。通訳案内士系の体験談として熱量が物凄かったです。気が付けば本書を応援する気持ちで読み進めてしまいました。文才もあるのか、読みやすく心に残るフレーズがたびたび登場しました。
通訳案内士は一期一会の要素が強いです。基本は一生に一度しかない出会いだと思います。だから外国観光客のガイドは大切にしたいものです。いろいろと通訳案内士の仕事に関する本は出版されていますが、本書はその面が色濃いです。人気がある通訳案内士も最初は初心者。新人状態のときの心境を体感できる本書は「通訳案内士をやってみたい!」という気持ちにさせてくれる本です。
玄武書房の通訳案内士(通訳ガイド)に関する書籍
通訳案内士のお仕事 じじいガイドのずっこけツアー
伊禮英全
プレスリリース:https://genbu-shobo.com/pr20210125/
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4909566244/
楽天ブックス:https://books.rakuten.co.jp/rb/16639162/
まとめ
今回紹介した5冊は現役で通訳案内士をしている人たちの体験談やノウハウ。気軽に読むだけでも通訳案内士の世界を覗くことができます。もちろん通訳案内士を目指していない方も楽しめる本ばかりです。
英文が多い本もありますが、分かりやすいシンプルなフレーズが多いので敷居はそこまで高くありません。気になったものがあればぜひ手に取ってみてください。