自身のコンテンツを自身の手で世に送り出せる出版形態を「自費出版」といいます。出版といえばかつては限られた人しか実現できない狭き門でしたが、ネットの普及やIT技術の進歩により、個人でも手軽に出版できるようになりました。出版社の厳しい審査を通さなくても、出版にかかる費用を負担すれば、書店に自分のオリジナル書籍を並べることも可能です。ただし、出版についての知識がないまま自費出版をすると、不利な契約をさせられてしまう恐れもあるので注意しなくてはなりません。この記事では自費出版にかかる費用や出版までの流れ、パートナーとしての出版社の選び方について解説します。
1.自費出版とは
まずは自費出版の概要を確認しておきましょう。
自己負担で出版
自費出版とは、個人が出版物の企画をおこない、印刷や宣伝・流通にかかる費用も個人が負担する出版形態のことです。かつては出版社に企画を持ち込み、審査を通過したごく少数の作品だけが出版社の流通網に乗り世に出ていくのが王道の出版方法でした。しかし、インターネットやIT技術の普及で製本・流通までの費用がおさえられるようになり、個人負担で手軽に自身の作品を世に出せるようになりました。
また、薬品や食品のように分類に対して法規制が厳しくないことも、自費出版によるコンテンツ発信が増えている要因でもあります。個人出版や自己出版など呼び名が出版社で異なるのもその影響ですが、特に大きな違いはありません。
自己出版により制作された本は、本の裏表紙に奥付と呼ばれる書籍情報を記載する箇所がありますが、そこで記載される発行元が出版社でなく個人名になります。書き溜めていたエッセイや小説、趣味の延長で描いていた絵本、世に発信したい自分の考えなど、さまざまな形のコンテンツが自己出版を通して世に送り出されています。
商業出版との違い
出版の方法は、自己出版と商業出版の2種類に分かれています。自費出版が出版に関する費用を自己負担するのに対して、商業出版では出版に関する費用を出版社が負担します。商業出版の場合、出版社が売れると考える企画のみ発行のプロセスに進めるため、出版を実現するには厳しい審査を通過しなければなりません。ですが、審査を通過しさせすれば、出版社が全ての費用を負担してくれ、出版社の持つ流通経路を利用して全国の書店に本が並ぶことになります。
流通経路と特約店
自費出版でもできるだけ多くの本を販売したいと考えている場合、いかに商業出版に近い形で販売できるかがポイントになります。そのポイントとは、流通経路と特約店契約です。流通経路とは出版社が持つ販売ルートのことで、特約店契約とは刊行された書籍を書店に陳列することを確約するための契約です。出版社の持つ流通経路と特約店契約を利用することができれば、自分のコンテンツをより多くの人に見てもらえる可能性が高くなります。
2.自費出版の種類
個人出版
1つ目の方法は、個人出版です。原稿作成から印刷・製本、宣伝・販売までの出版に必要なプロセスをすべて自費で負担する出版方法です。発行する出版物に関する責任を著者自身がすべて背負うことにはなりますが、自分の裁量で自分の作りたいように書籍の作成ができる点にメリットがあります。
友人や知人など近しい関係の人にだけ共有する私家本や同じ趣味趣向をもった人々で制作する同人誌にも似ていますが、自費出版は書店に流通することを目的にしているため、ISBNコードの有無という大きな違いがあります。
ISBNコードとは、国際標準図書番号の英略です。ISBNコードがあることで全国の書店での販売を可能にし、国立国会図書館への納品ができるようになる規格です。個人出版では国際標準規格に沿った書籍を作成するため、社会的信頼性のあるものに仕上げることができるのです。
企画出版
2つ目の方法は、企画出版です。著者のメインの作業は原稿執筆のみで、出版社が校正や宣伝などその他のプロセスを、費用を含めて負担して実施する出版方法です。発行する出版物についての責任は出版社にあるため、原稿を出版に繋げるには出版社の厳しい審査を通過する必要があります。
無名の個人にとっては狭き門ではありますが、出版社が売れると判断すれば全ての費用を出版社が持ってくれ、自分の書籍を全国の書店に販売することが可能になります。自身の知名度や影響力を一気に伸ばすことができる方法でもあります。
協力出版
3つ目の方法は、協力出版です。協力出版とは、著者側で原稿作成や出版についての費用を負担し、流通・宣伝を出版社が担う出版方法です。費用負担の詳細や出版プロセスについての役割分担はそれぞれの契約で異なりますが、著者と出版社の共同制作といった出版形態となります。
協力といえども著者だけが赤字になる不平等な仕組みになっているため、注意が必要です。協力出版はその不平等な契約が原因で過去にトラブルも発生しているため、自費出版の依頼をする際は費用負担の内容や出版方法の詳細、宣伝方法について細かく確認するようにしましょう。
3.自費出版のメリット・デメリット
メリット
誰でも作家として世に出られる
1つ目のメリットは、誰でもすぐに作家として世に出られることです。かつては出版社の目に止まらなければ自分のオリジナルコンテンツを世の中に出すことなど不可能な世界でした。何度も原稿を書き上げ何年も出版社に送り続け、それでも作家としてデビューできるかどうか不明確なのです。自費出版という出版方法が生まれたことで、誰もが均等に自分の作品を世に出す機会を得られるようになったのです。
自分の望み通りのコンテンツを発信できる
自費出版はすぐに作家になれるだけではありません。世に出すコンテンツ内容も自由に決めることができます。商業出版の場合は、出版に向けて売らなくてはならない・読まれなくてはならないという使命がありますので、ある程度決まった制約の中で作品を作り上げていく必要があります。ですが、自費出版の場合は制約なしに自分の考えを自由に表現することができます。
利益目標がない
書籍の売上を上げるためには、世の中のニーズに合った作品を届ける必要があります。ですが、自費出版の場合は売上目標や利益目標を設定する必要がないためプレッシャーがありません。自分が作り上げたオリジナルの作品を自分の希望する冊数だけ出版することができます。
自分に自信が持てる
自費出版をすることで、作家としての自分に自信が持てるようになります。自分が丹精を込めて作り上げた作品が出版され書店に並び、お客さんが手に取る様子を目にすることは、誰もが経験できることではありません。練り上げたものを世界に解放することで、満足感と自信を得られることでしょう。
デメリット
出版費用が全額自己負担
デメリットとして大きいのは、やはり出版費用が全額自己負担になってしまうことです。自費出版の場合発行者が著者になり、書籍に関する責任を背負うのと同時に費用も負担しなければなりません。費用負担は、出版社の原稿審査を通さない代わりに著者が受け入れなくてはならないリスクになります。
書籍内容についてのクレーム
自費出版では、クレーム対応も自分の責任でおこなう必要もあります。何らかのコンテンツを世に出すということは人々の目に触れることになりますから、異なる意見を持つ人が見ればどんな良作だとしても相応の反応が返ってきてしまいます。
必ずしも広告・宣伝をしてくれるわけではない
出版社との契約内容にもよりますが、問答無用で広告・宣伝までしてくれる訳ではありません。契約によっては別途費用がかかることもあるでしょう。知られていない書籍を積極的に手にする人は少ないですから、宣伝方法も含めて出版までのプロセスを検討する必要があります。
4.自費出版の方法・流れ
企画・構成
まずは書籍の企画・構成を検討します。どのような内容をどの順番で伝えていくか、内容のボリュームや大まかなデザインなど、制作する書籍の大枠をイメージできるようにします。過去に似たような作品があれば参考にしてみても良いでしょう。
原稿執筆
作品の大枠が決まったら原稿の作成に移ります。自分の想いや考えが読者にしっかりと伝わるよう、想定する読者が読みやすい文章に仕上げます。また、内容によっては写真やイラストを添えるとより分かりやすくなるでしょう。素材の使用には著作権などに注意する必要はありますが、読み手の立場に立ったより分かりやすい作品に仕上がるはずです。
デザイン
原稿の執筆が完了したらデザインの検討です。数ある書籍の中から自分の書籍を手にとってもらえるかどうかを左右するものですから、類似作品などとも見比べながら、納得のできるデザインを追求していきましょう。
校正・校閲
デザインも完成したら原稿の校正・校閲をおこないます。校正とは誤りや不具合を修正することを指しており、誤字脱字やページ内に文字が収まっているかなど、文章そのものの修正点を確認します。校閲とも誤りや不具合の修正を指していますが、事実関係や著作権など内容についての修正点を確認する作業になります。
印刷・製本
書籍の内容が完成すれば、あとは印刷・製本の作業になります。ただし、印刷してから判明する色味の違いなどもありますので、最後まで注意の目を光らせておきましょう。色味の確認まで完了すれば、製本され晴れて自分オリジナルの書籍が完成となります。
5.自費出版にかかる費用
自費出版にかかる費用を見ていきます。何事も「コストパフォーマンス」は重要なポイントのため、あなたが思い描いている「本」の出版に欠かせないものが何かを考えてみましょう。第三者の視点によるプロの編集が入ることで、確実に作品全体のクオリティが高まります。
出版にかかる費用
書籍の出版にはさまざまな工程が加わるため、それぞれの工程にかかる費用を合算して考える必要があります。出版するのに必要な費用の種類は以下のようなものがあります。
●企画費
●取材費
●原稿料
●イラスト料
●校正費
●印刷・製本費
●流通費
その中でも、大まかな費用計算に使われる項目が印刷・製本費です。自費出版の場合、印刷・製本費用を2〜3倍した金額がトータルでかかる費用の相場です。仮に印刷・製本費用が50万円の場合、100万円〜150万円が自費出版にかかる費用と考えると良いでしょう。
また、商業出版の場合も同じような金額の費用がかかっています。商業出版であれば著者の金銭的負担はありませんが、仮に5,000部の書籍を製本する場合は定価1,000円の書籍を想定すると300円ほどが制作費用となり、トータルの制作費は300円×5,000部で150万円ほどと計算できます。
自身のオリジナル作品を書籍として世に出すには、100万円単位のお金が必要になる訳です。ですが、最近では電子書籍での出版も増えています。印刷費用がかからず在庫を持つリスクもないからです。紙に印刷する費用がかからないため紙の書籍の半額程度に抑えられるケースもあります。
3つの選べる商業出版
インフルエンサー出版
こちらは厳しい審査を設定している商業出版になります。出版にかかる費用は0円ですが、インフルエンサーとして現在活躍中の方・過去に出版経験がある方に限られます。
ブランディング出版
自身のビジネスへの集客に繋げられるブランディング出版、という方法もあります。ブログやSNSで発信する人は多くいますが、いずれも本人の一つの側面しか映し出していません。書籍という形で発信することで、自分が抱くより深い想いを読者に伝えられるはずです。費用は19.8万円(税込)からです。
自叙伝出版(小説や絵本の出版も対応)
発行部数に制限のない自叙伝出版は、「どうしても本を出版したい」という想いを叶えるのに最適な方法です。受注発注システムを採用しており在庫を抱えるリスクがありません。28.6万円(税込)〜自分オリジナルの書籍を出版できます。
6.自費出版から得られる印税について
印税とは
書籍から得られる収入といえば「印税」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。印税とは、書籍の売れ行きに対して数%が著者に還元される仕組みです。書籍が一万部単位で売れるヒット作品になれば、印税で悠々自適な生活も夢ではありません。
印税の仕組み
印税を受け取るためには、その仕組みを知る必要があります。印税は著者が著作権使用料として出版社から受け取る報酬です。出版社が雇用者・著者が非雇用者としての関係性が成り立つ商業出版の時に発生する報酬で、新人著者であれば7%前後の印税額が相場となっています。
自費出版の場合は、著者が雇用者で出版社が非雇用者の関係になるため印税ではなく売上がそのまま著者の収入になります。ただし、本を自力で売ることができなければ費用を賄うことすら叶わない、というのが実情です。
玄武書房の印税は10%
玄武書房は売れた分だけ印刷するため、著者が在庫リスクを抱える必要がない仕組みとなっています。その上、売れた際に発生する印税は10%を確保しており、著者が正当に評価される体制が整っています。
7.出版社の選び方
パートナーとなる出版社を見つけるための選び方をご紹介します。数ある出版社のなかで「どこを選ぶのか」というのは難しいところです。ただ『製本すれば良い』のであれば、印刷所に依頼した方がお得です。しかし、作品のクオリティを考える場合、専門の出版社を通す方が満足感を得られるでしょう。
HP等で基本情報をチェック
まずはHPなどで出版社についての情報収集をおこないます。設立年度や実績などを確認し、信頼に足る出版社かどうかをチェックします。
見積書が具体的かをチェック
信用できそうな出版社に出版の見積書を依頼します。具体的で分かりやすい見積りをしているかをチェックします。出版で注意しなくてはならないのは追加費用についてです。追加の場合は何の費用がどのくらいかかるのか、逐一チェックします。
出版社の得意ジャンルをチェック
出版社にはそれぞれ特色があり、得意なジャンルも異なります。自分の出したいコンテンツとの相性もチェックしましょう。HPなどから推察できない場合、問い合わせを受けた担当者に直接聞いてみると良いでしょう。
校正の程度をチェック
制作した書籍のクオリティをあげるには、校正のスキルが大切です。プロに見てもらうことで、小さな違和感などを修正できるからです。そもそも依頼する出版社で校正を受けてもらえるのか、追加費用が必要かなど、どのような対応になるのかをチェックします。