自費出版とは、著者が費用の全額および一部を負担する出版になります。共同出版や協力出版、もしくは会社が主体で出版する企業出版なども自費出版に含まれます。商業的に流通する書籍もあれば、個人が家族や親族向けに保存用として作る書籍もあります。今回は自費出版を検討している方たちに判断材料となる情報をお伝えしていきます。
その費用は200万円以上もする高額なものもあれば、電子書籍であれば3~5万円程度の格安な出版もあります。もし自分の本を書店に並べたいとなれば、やはり“それなりの費用”が発生してしまいます。それだけの価値があるかの判断はご自身の価値観や目的による部分が大きいです。自費出版において費用対効果も考慮しておく必要があります。
自費出版とは?
基本的には、出版費用を著者が一部でも負担するものは「自費出版」と言えます。著者が負担しないものは「商業出版」の扱いになりますが、自費出版であっても『書籍を出版した』という事実(実績)としては同じ効果が見込めます。
自費出版の現状について
あるアンケートで「あなたは本を出版したいですか?」という質問に対して、「はい(一度は出版したい)」と答えた人の割合が70%を超えていました。つまり、多くの人がチャンスがあれば出版したいと考えたことがあるようです。特に、年齢が高い人ほど自分の人生を残したい(本にしたい)と感じているようです。実際に、当方への問い合わせも50代以上の方の割合が多いです。
また何かしらの講師や専門家の方たちが『ブランディング』として利用されることも増えています。業界全体で見ても「出版した」という事実により各種メディアに取り上げられるという過去の実績も多いため、ブランディング効果を求めて自費出版を検討するのは必然だと思います。しかし、必ずしも「出版=成功」となるとは限りませんので、自分にとっての費用対効果を検証しておきましょう。
4つの流通や出版のパターン
自費出版では様々な費用が必要になりますが、それは流通や出版のパターンによって金額も大きく変わってきます。よく「書店に並べる」ことにこだわっている人がいますが、書店に並べても本当に売れる部数は知れたものです。必ずしも「印刷部数=販売部数(読者数)」ではないことを理解しておく必要があります。
<さまざまな流通ルートが存在>
・書店(店頭)に並べる
・オンライン(ネット)のみで販売
・電子書籍なら格安で出版可能
・個人や家族向けの保存用
書店(店頭)に並べる
自費出版の本でも書店に並べることができます。ただし、それなりの費用が必要です。基本的に自費出版では「スペースの買い取り」をして本を置いてもらう形になります。もちろん、著者が支払う金額に含まれるので、店舗数(何店舗に置くか)によっても費用の増減があります。著者は店舗のどこに置いてもらえるかまでは関与できませんし、店頭に並んでいる期間には限りがあります。
書店に並べる最大のメリットとしては、たまたま本屋に来たお客さんの目に留まる可能性があるという点です。ネットとは異なる読者層を獲得できる可能性があります。もし書店に並べる場合には、ぜひその書店に行って、実際に配置されている写真などを撮影することをオススメします。その事実を残すことで、後々のブランディングなどにも活用できます。
オンライン(ネット)のみで販売
Amazonや楽天ブックスなどのネット書店で販売ができます。最近は本屋に直接行かずにネットで探して購入するユーザーも多いです。そのため、ネットで検索されやすいような戦略を考えていく必要もあります。その戦略が当たれば、同じジャンルの本として検索結果が表示されるので、メジャーな書籍よりも先に読者の目に留まる可能性もゼロではありません。
オンライン販売におけるメリットは、やはり自費出版の費用を抑えることができる点です。書店に並べるよりも100万円近くは安い費用で出版ができると思います。さらに、在庫の概念がない格安の『オンデマンド出版』という選択肢が出てくるため、半永久的に販売できるようになります。期限なく販売できるということは、それだけ読者が手にするチャンスが多くなるということです。
電子書籍なら格安で出版可能
誰もが知っているメジャーなところではAmazonの「kindle出版」だと思います。電子書籍の市場も拡大していますので、出版の目的によっては選択肢としても考えられます。しかし、格安の自費出版の典型的なパターンとはいえ、著者が求めるメリットを得られないことも多いのも事実です。少なくとも出版社経由の電子書籍でなければ、ブランディング効果は期待できません。
電子書籍は、個人出版(自分ひとりで出版する)も可能なので、あまり知識がない人でも3~5万円程度の費用で自費出版することができると思います。数年前なら電子書籍でもブランディング効果はそれなりにありましたが、現状では「出版社から出版できない本(人)」と読者から判断されることも多くなっています。むしろ、マイナスなイメージになるリスクもあります。
個人や家族向けの保存用
特に、高齢者の方に多いのが『保存用の書籍』の自費出版になります。50部や100部くらいの少部数での出版を希望される方が多いですが、50部も100部も印刷費用としては大差がありません。製造工程的に100部くらいが部数の下限だと考えて良いでしょう。おそらく50部の見積もりに、2~3万円増額すれば100部くらいまで印刷できるはずです。
保存用の書籍で多いのが、ハードカバーを希望するパターンです。実際のところ、ハードカバーにすると費用が一気に跳ね上がるので、もし費用を抑えたいのであればノーマル仕様(並製本)が良いと思います。見た目にこだわるよりも時間をかけて原稿の修正をしっかりやってもらいたいと思います。その方が読者(家族等)にとっても親切だと思います。
自費出版のメリット
せっかく自費出版するなら、そのメリットを理解して活用できるように最低限の知識を持っていただければと思います。
本を出版したという実績ができる
一般ユーザーからしてみれば「本を出版している」という事実は大きな影響力(インパクト)があります。何より本を書けるだけの知識がある人という認識を持ってもらえるので、アドバンテージ(優位性)を得られるわけです。さらに、それが出版社経由であれば『プロに認められた著者』と判断されます。この実績はいろんなメディアへのアピールへもつながります。
自分の伝えたいことを書ける
当然ですが、自費出版においては『著者の本』を作ることができます。自分が伝えたいこと、言いたいことを本に綴れます。ただし、自費出版のなかでも「共同出版」や「協力出版」では、出版社の意向を考慮する必要も出てくるでしょう。また、公序良俗に反するものや法にふれる内容などは出版できないことはあります。
各種メディアに取り上げられる可能性あり
自費出版の作品であっても、商業的に流通させることで、いろんな雑誌やテレビから取材されることもあります。もしくは、自分から各メディアに書籍を送付(献本)するなどしてアピールすることも可能です。実際に無名の新人著者であっても自費出版によって、新聞・雑誌やテレビ出演したという事実も多いです。もちろん、本の売り上げにも直結していきます。
自費出版の費用について
自費出版は高額だと思い込んでいる人も多いと思います。しかし、出版のパターンを検討すればコストを抑えることもできるので、自分の目的に合った自費出版を選んでいきましょう。
<自費出版に必要な費用>
・編集費
・デザイン費
・印刷費
・宣伝広告費
・書店のスペース確保【高額になるポイント】
※その他、出版社の営業費なども含まれます。
高額な価格帯(150~250万円)
書店に並べる自費出版の相場は約200万円前後になります。部数は2000~3000部くらいで全国展開の書店が多いですが、契約前に事前に確認しておく必要があります。中堅の出版社の場合、地方や地元の来客数が見込めない小さな書店などの可能性もあります。必ず配本する書店名をすべて提示してもらってください。
またメジャーな出版社の自費出版が高額な理由のひとつとして『営業管理費』が含まれてしまうという点です。出版を希望する人に対して営業をかける担当者の人件費は「著者にとっては関係ない」ものですが、出版費用(出版社側にとっての売上)に影響するので仕方がありません。高額な分、編集作業など基本工程はしっかりしていると思います。
利用しやすい価格帯(20~50万円)
この価格帯であっても書店に並べられる場合もあります。ただし、小さな書店や部数の制限があることが多いので、しっかり契約時に確認しておきましょう。また書店に並べられる反面、その他の編集作業が簡略化されていることもあります。自分の原稿によほどの自信がある著者でなければ、ちゃんとした作品に仕上げるのは難しいかもしれません。
ネット販売がメインになる自費出版の場合、その費用によって作業工程(編集・修正・アドバイスなど)の内容も変わってくると思います。その出版社がどこに力を入れているのかを把握しておく必要があります。オンデマンド出版でなければ、実際に本を印刷する費用がかかるので、編集などの作業が簡略化されることもあるので注意が必要です。
格安な価格帯(3~10万円)
まず電子書籍であれば知識がなくても3万円程度で出版は可能になります。正直なところ、出版するだけなら編集や監修なしのオンデマンド出版がもっとも格安(最安値)で利用できます。どちらにしても、個人出版に近い形になることが多いので、ネットの知識やワードや編集ソフトを使いこなせる最低限の技術は必要になります。
もちろん、格安の自費出版はデメリットが大きくなります。出版費用は抑えられますが、第三者(プロ)が介入しないため、どうしても作品のクオリティが下がってしまいます。読者が「読みにくい本」や「共感しにくい本」が完成してしまうことが多く、結果的にその出版自体がマイナスになってしまうリスクも少なくありません。
印税について
ほとんどの場合、自費出版であっても印税(本体価格×印税率)が発生します。逆に、商業出版でも印税が発生しない(初版は印税なし等)こともあります。事前の契約段階でしっかり確認してください。
一般的な印税率は5~8%程度
一般的な商業出版の印税は5~15%くらいの間で決まることが多いです。過去の出版実績などで決まることが多いので、新人作家さんであれば5~8%程度が多いです。絶対数としては少ないですが、メディア露出の多い有名かつ一定の固定ファンがいる著者などは印税15~18%くらいで契約している方もいるようです。
自費出版では8~20%が目安
自費出版の印税は8~20%くらいを目安に考えると良いと思います。最大で印税30%という出版社もありますが、基本的な作業工程が簡略化されている(やってもらえない)というマイナス面もあります。もし原稿つくりや表紙デザインを自分でやってしまうという著者であれば、そのような印税率の高い出版社を利用していくのも良いと思います。
自費出版における注意点
自費出版でのトラブルは多いので、以下のようなポイントに注意しておきましょう。また契約前に疑問があれば、しっかり確認して自分のなかでの不明点を解消しておく必要があります。納得して契約することが大切です。
高額および後乗せの費用に要注意
高額な自費出版でよくあるパターンですが、割引のような対応で「条件の悪化」を提案する出版社もあります。例えば、部数を2000部から1000部にしたり、書店に並べる部数を減らしたり、さまざまな著者にとってのマイナスが生じることがあります。もちろん、200万円が100万円になるのなら、それだけ条件にマイナスが発生するのは仕方がありません。
また後乗せ費用が問題になるケースも多いです。著者の事前確認ミスによる部分も多いですが、それ以外でもプラスアルファの費用を請求されることもあります。契約前にどのような条件での出版なのかをしっかり確認しておきましょう。追加費用に関しては、単純に「追加で費用が発生することはありますか?」と事前に聞いておけば良いと思います。
実際の販売数は分からない
特に書店に並べる出版パターンの場合、実際に販売された部数が分からないということが多いです。なぜなら、書店に並べた本を回収すらせずに廃棄してしまうということもあるようです。著者に対して、印税は「印刷部数」で支払われますが、「印刷部数=販売数ではない」ということを認識しておきましょう。ほぼ可能性はありませんが、出版社負担での重版があった場合のみ、本当に売れているということになります。
例えば、書籍のなかに読者からコンタクトが取れるような連絡先(メールアドレスなど)を記載していた場合、1000部くらい売れたら少なくとも3~4件くらいの問い合わせはあるかなと思います。もちろん、書籍の内容や連絡方法の種類にもよります。そのような読者からのコンタクトがなければ、本当に読まれている(売れている)か少し疑問に感じた方がよいかもしれません。
電子書籍ではブランディング効果は薄い
電子書籍の場合、出版の実績としては弱いと判断されるためブランディング効果はあまり期待できません。それは個人での出版が簡単にできるため、やはり「誰でも」(専門家でなくても)できる出版と認識されています。もちろん、誰もが知っているようなメジャーな出版社であれば効果はあります。それが商業出版であろうが自費出版であろうが効果は同じです。
個人で電子書籍を作る場合には、その書籍の内容を十分に吟味しておく必要があります。もし可能であれば、家族や知人(第三者)に原稿を見てもらった方が良いかもしれません。物書きが仕事でない方の原稿は「くせ」があることが多く、読者にとって読みにくい本になっている可能性が高いです。自分以外の誰かに確認してもえば多少なりともクオリティアップにつながります。
原稿は6~7割くらい完成後に契約へ
自費出版の場合、原稿が9割くらい完成していれば、出版社側での原稿修正が行われたとしても約3-4か月で出版まで進めると思います。やはり元原稿の仕上がりによって、出版までに必要な期間が決まってきます。また原稿はある程度完成させてから契約に進むことをオススメします。少なくとも6~7割の原稿があった方が著者も出版社側も安心できます。
また契約した後の執筆となると、何かしらの理由で作業が滞る著者もいらっしゃいます。契約したという事実に満足して筆が止まってしまうという方もいるのかもしれません。実際の話、自費出版の契約自体はいつでも可能です。もし「今でなければ条件が変わる可能性がある」などの営業を受けたとしたら、そのような勧誘をする出版社は避けた方が良いでしょう。
出版する目的を明確にしましょう!
あなたが自費出版する目的は何でしょうか?それを明確にしておくことで、どのような出版パターンが良いのかも変わってきます。
生きた証を残すための保存用書籍
シニア層の方たちで多いのが保存用の自費出版になります。自分が経験したことを家族や親族に残しておきたいということで、自叙伝的な書籍を作りたいという問い合わせも多いです。家族や家系の歴史をまとめておきたいなどの依頼もあります。他にも、教室や施設などで使う教材や関係者に配布する資料のような書籍を希望する方もいらっしゃいます。
保存用の書籍の場合、読者は家族を含めて顔見知りになると思うので、正直、そこまで原稿のブラッシュアップは必要ないかもしれません。自費出版のコストを抑えたいのであれば、出版社経由よりも『印刷所』からの出版が良いと思います。印刷所の場合、原稿のチェックや修正は行わず、印刷に徹するということで格安な費用での自費出版が可能となります。
一般ユーザー(読者)に向けた書籍
あなたの出版の目的が「ブランディング」や「知名度アップ」のような一般ユーザーへのアピールもしくは伝達である場合、やはりプロによる原稿チェックは必須と言えるでしょう。ひとりで『読みやすい本』を作るというのは簡単なことではありません。執筆を生業としている人以外は、ほぼ読みにくい原稿(クセがあったり、統一性がなかったり)になっています。
読者を意識した書籍つくりにおいて、やはり経験値が重要になってきます。自費出版で失敗しないためには、読者のための本を作る意識と技術です。原稿の編集や構成をやってくれる出版社経由で行うのが良いと思います。費用面(見積もり)やサービス内容を確認しながら、自分に合った自費出版を探していきましょう。