近年、商業出版の原稿募集は数が少なくなりました。最大の理由は「本が売れない時代」に突入したからです。当たり前ですが、出版社にとって「本が売れること」が利益になるわけで、売れない本を作る余裕がありません。一昔前であれば、もう少しチャレンジした本も多かったと思います。
・商業出版の原稿募集について
・公の原稿募集が減ってしまった理由
・原稿の前に企画書が必要
・大手出版社10社の原稿募集状況(2019年)
・商業出版にこだわる意味はある?
商業出版の原稿募集について
例えば、小説やライトノベルのようなジャンルであれば、むしろ公募数は増えています。もし爆発的なヒットをすればラッキーですが、それ以前に今の市場では“失敗しにくい”ジャンルだと思います。ある程度の販売予測も立てやすいので、他のジャンルに比べれば積極的に原稿募集が行われています。
しかし、ビジネス書や実用書、ハウツー本などの一般的に「商業出版したい」と考える著者が多いジャンルは原稿募集の数は明らかに減っています。正直、やはり無名新人著者の本は売るのが難しいです。そのため、一定のブームが来そうなジャンルでは、ある程度の著名人(特にテレビに出演している人)たちに声をかけることが多いです。
実際に原稿募集はしている出版社であっても、商業出版に前向きかと言えばNOとなります。ただ一般著者のなかにも素晴らしい企画を持っている人がいます。つまり、出版社側が逸材だと感じない限り、商業出版に至るのは難しいのが現状ではあります。
皆さんの頭のなかに「一応、原稿募集をしているだけ」という認識があれば、原稿募集で自分の作品がスルーされても落ち込まなくても済みます。原稿募集の持ち込みでは「商業出版できたらラッキー」程度に考えておきましょう。
公の原稿募集が減ってしまった理由
何といっても「本が売れない」これに尽きると思います。原稿募集による商業出版の売上というのは、売れるか売れないか博打(ばくち)みたいなものです。しかも、ほとんどの場合、その博打は負け戦になることを業界人であれば誰もが知っていることです。
また応募する側の皆さんが見ているのは表面上の一部分だけです。原稿募集することで、その原稿(一般的には企画書)を確認する人材、商業出版としての価値を検討する時間(市場調査やターゲット選定他)など多くの労力と時間を費やすわけです。きっと皆さんも出版社側の立場なら、確実に売れる本を作る選択をすると思います。
また最近ではSNSによる弊害もあると考えています。個人がSNSで気軽に発信する時代です。その発信のひとつの手段として「商業出版」を考える人が多く、原稿募集をしてもSNS気分の気軽な著者が急増しています。つまり、原稿募集で集まる作品のレベルが低くなってしまったので、その手段を出版社が避ける傾向にあります。
さらにSNSという側面から言えば、やはり拡散力や“広告宣伝力”は魅力的です。そのパターを活用しないのは勿体ないと考えると、結局、タレントや著名人のSNSパワーを使った方が「売れる本」になるのです。一般著者から何か新しいものを募集するよりも、すでにいるファンたちを狙った方が早いのです。
もうひとつ、原稿レベルが下がってしまった理由のひとつに「電子書籍」の存在もあります。正直、誰でも手軽に出版できてしまう電子書籍は非常にクオリティが低い作品が多いです。それらを読んだ人たちは「これくらいなら自分でも書ける」という勘違いをしているような気もします。商業出版と電子書籍を一緒に並べて考えるのは大きな間違いということを覚えておいてください。
原稿の前に企画書が必要
商業出版と言っても、小説では原稿募集ですが、それ以外の場合には「企画書」を持ち込むのが一般的です。それぞれの出版社の募集要項というのがありますので、必ず確認してください。最低限のマナーを守れない著者の本は99%出版されることはありません。昭和の時代のような強引な持ち込み(飛び込み、直談判)などは、今の出版社には通用しないのです。
ちゃんと企画書を持ち込み(郵送かメールが多い)その企画書によって商業出版の可能性を判断されます。企画書を送ってから著者ができることは祈ることだけです。原稿募集(企画書持ち込み)においての良い兆候としては、審査期間に何かしらの確認連絡などが来ることはあります。かなり商業出版の可能性が高まっているのですが、そこのやりとりでボツになることも多いです。
基本的に原稿募集や企画書持ち込みの際に“守ってもらいたい”ことがあります。それは同一企画を重複した時期に持ち込まないことです。何かしらの「賞」であれば募集要項に記載されているので、皆さんも気をつけて厳守するのですが、そのような明確な募集要項がない場合、同時期に他の出版社にも持ち込んでいる人がいます。これは明確な規定はなくてもマナー違反だと思います。
特にあせる必要はありませんので、もし期間設定がない場合なら、応募してから1ヵ月くらいは重複応募はやめておきましょう。出版社から電話やメールで「この企画書は、うちだけに応募したものですか?」と聞かれて、慌てふためき、その対応をミスって商業出版が流れてしまうこともあります。
大手出版社10社の原稿募集状況(2019年)
<2018年の売り上げ上位の10社>
1.講談社 △
2.KADOKAWA △
3.宝島社 ◯
4.医学書院 △
5.ダイヤモンド社 ◯
6.幻冬舎 ◯
7.SBクリエイティブ ◎(小説)
8.永岡書店 ◎(児童書・実用書)
9.羊土社 △
10.自由国民社 △
<記号について>
◎:積極的な募集あり
◯:郵送のみ受付
△:応募の否定はしていない
対外的には積極的な募集とは、表現が難しいので詳しいことは避けておきます。その送られた企画書をどれだけ本気で読んでいるのかは疑問です。常時募集している出版社の場合、その対応部署が設置されているかどうかがポイントになると思います。
またジャンル指定のある出版社の場合であれば、送られてくる作品数も絞られるのでチャンス(ちゃんと企画書が読まれる)だと思います。小説系は数が多いですが、小説を常時受け付けている場合には専門部署があるか、しっかりと対応スキームが出来上がっていると思います。
商業出版にこだわる意味はある?
あえて聞いておきたいと思います。あなたは商業出版をしたいですか?それは商業出版でなければ達成できない理由ですか?私が大切だと思うのは「あなたの出版する目的を明確にしてもらいたい」ということです。その目的の大小は重要ではなく、ちゃんとゴールを見据えて走り続けて行けるかどうかです。
そして、著者負担のない商業出版が難しい場合には、商業出版型の自費出版という手段もあります。出版を通じて何をしたいのか、それさえ明確であれば、商業出版をする手段はあります。本来の目的を叶えるためのひとつの手段として検討してみるのも良いと思います。
実際に商業出版をしてみるとわかるのですが「本が読者の元に届いた実感」は他には代えがたい喜びがあります。ぜひ目的を明確にしてから、商業出版にこだわってください。もし手元にネタがあるのなら、今すぐ原稿募集や企画書の持ち込みをしてみましょう。まずは行動あるのみです。