今回は商業出版で気になる印税のお話です。この本が売れない時代において『印税生活』は可能なのでしょうか?あまり夢見話をしても意味がないので、リアルな現実と可能性をお伝えしていきます。商業出版のメリットは印税だけではないことを理解してもらえたら幸いです。
・商業出版での印税について
・印税の定義って何?
・実際にもらえる印税はいくら?
・商業出版のリアルな印税計算
・結局、印税生活はできるのか?
・商業出版することのメリットとは?
商業出版での印税について
商業出版においては、基本的に著者には「印税」が発生します。その割合は著者と出版社の話し合いで決まります。ほとんどの場合、出版社が一定の決まった印税率を提示するので、それを著者が承認するという形になります。
著名人やタレントのような場合、その印税率を指定する人もいます。過去に出版して売れた実績や確実に売れると出版社が判断すれば契約成立です。メンタリストのDaiGo(ダイゴ)さんは印税16%以上を提示しているようです。毎年、複数冊の本を出しているので、実際に出版社的に売上があがっている本ということでしょう。また実績や話題性のある著名人やタレントさんであれば、印税とは別に執筆代(契約金)をもらえる人もいます。
ただタレント本では、タレント本人が書いていない場合も多いです。いわゆるゴーストライターですが、その場合には印税率は低くなります。どちらかと言えば、印税というよりも「名前を貸す費用」みたいなイメージです。かなり昔の有名な話で、松本伊代さんが自分のエッセイの囲み取材で「まだ私も読んでない」と失言しました。
印税の定義って何?
印税の定義は「Wikipedia」を確認してもらうとして、単純に言えば『著作権使用料』です。この著作権の定義や範囲も難しいのですが、商業出版で言えば「その本の価値や価格に影響する範囲」の著作権と考えるのが妥当かと思います。
ちょっと話は反れますが、出版業界では有名なグレーな話もあります。某宗教家が出版している「守護霊インタビュー」にはタレントや著名人の名前だけでなく写真まで使われていることがあります。その内容も過激なものが含まれることもあり、名誉棄損の可能性などもあるのですが、これを法的に訴えるのは難しいと判断されています。実際に有名人の名前や写真が使われても、著作権が発生していないという不思議なお話です。絶対に皆さんは真似しないでください。
このような例外は別として、印税の対象となるのは、著者の名前、文章、写真やイラストなど様々ありますが、基本的に出版する前の契約書で決められます。特に写真やイラストなどは印税契約ではなく、買い切り(買い取り)方式で行われることが多いです。
実際にもらえる印税はいくら?
実際にもらえる印税ってどれくらいなのか?それは著者のレベル(出版社の評価)によって大きく変わってきますが、大まかなイメージとしては以下のような感じになります。
無名の新人著者 :3~8%
著名人やタレント:5~10%
実績のある著名人:10~15%
そう考えるとメンタリストの16%での出版は例外中の例外と言えるかもしれません。また、先にも書きましたように、著名人やタレントでも実際に書いているかどうかによって、印税にも幅がありますので、何冊売れたということで単純計算しても、その著者がいくらもらったかの判断は難しいです。ほとんどの場合、皆さんが想像するよりは少ないことが多いと思います。
商業出版のリアルな印税計算
それでは、あなたが商業出版をしてもらえる『リアルな印税』を計算してみましょう。商業出版にも種類がありますので、そのパターンごとに見ていきたいと思います。あくまで平均的かつリアルさを追求していきますので、けっして“夢のある話”にはならないので期待しないでください。
~印税計算の前提~
・印税率:あなたは無名の新人著者(3~8%)なので、中間の「5%」とします。
・本の価格:小説は700~1200円、実用書は1000~1500円程度、ここでは1000円に設定。
・この計算において消費税は考えません。
<企画書持ち込みによる商業出版>
商業出版の企画書を持ち込んで採用されて出版した場合、初版の部数としては5000部程度かそれ以下が一般的です。持ち込みからの商業出版なので、販売部数で計算するのが妥当だと思います。売れ残りが2割程度だと仮定しますと、印税対象となる販売部数は4000部になります。これでも売れている本の計算です。
1,000円×4,000部×5%=200,000円
結果、あなたが受け取れる商業出版での印税は20万円程度になるでしょう。これがリアルな現実です。実際に執筆に費やした時間を時給計算すると悲しくなるかもしれません。後ほど“少しだけ”夢のある話はしようと思いますが、これくらいかと思っておけば、印税への無駄な憧れを持たなくてよくなると思います。
ちなみに、有名人の例で言えば、森田健作さんが千葉県知事になってから出版した本(2012年)の発行部数は5,000部程度です。しかも、そのうち3,000冊は自分で関係者への配布用として購入していたようです。つまり、実質売れた可能性があるのは2,000部以下ということになります。
<自費出版による商業出版>
これは印税と呼べるのか難しい出版社もあります。例えば、出版費用として200万円を支払って1000部を発行したとします。本の価格が1000円で印税が5%という契約だと仮定します。
1,000円×1,000部×5%=50,000円
ほとんどの場合、発行部数に応じて印税が支払われます。すると、著者に支払われる印税は5万円ですが、もともと支払っているのは200万円です。結果的に195万円で自費出版(商業出版)をしたということになります。印税と言えば印税ですが、1000部程度の発行部数では、重版なども期待できないので、それ以上に増えることは99%ありません。
<何かしらの賞をとった場合>
こちらはシミュレーションではありません。皆さんご存知のはず、芸人の又吉さんの「火花」は異例中の異例です。発行部数253万部。芥川龍之介賞を受賞した影響だけではなく、芸人という経歴、圧倒的なテレビ(メディア)の露出により大ヒットになりました。
火花の場合
1296円×253万部×10%=327,888,000円(3億円)
実際には、賞を獲れば全てが売れるわけではありません。同時受賞となった羽田圭介氏の作品「スクラップ・アンド・ビルド」の発行部数は21万部ほどです。これでもかなりの大ヒットです。火花効果で一緒に話題になった影響が大きいです。実際に賞を獲っても5万部程度しか売れていない本も多数あります。
結局、印税生活はできるのか?
上記のような「又吉さんパターン」なら印税生活が“正夢”になったと言えるでしょう。ただし、又吉さんは吉本興業の所属タレントなので、一部の噂では3割程度が中抜きされているという話もあります。あとは税金で半分は持って行かれるとしても、少なくとも1億円は手元に残ると思われます。それでも、商業出版での印税生活という点では十分に成立しています。
商業出版で爆発的に売れた場合、もしくは最初は売れなくても話題になった場合には、書籍以外の印税の可能性も生まれます。例えば、ドラマや映画など映像化などの2次使用による印税も発生することになります。もちろん、商業出版(書籍)の印税契約とは別の話なので、新たに印税契約を結ぶので、その契約内容には注意してください。
結論を言いますと、商業出版での印税生活は難しいということです。何より、自費出版以外の選択肢では商業出版すること自体が難しいわけですから、あまり期待すべきではありません。ただし、奇跡的なヒットをしている自費出版での商業出版もありますので、全く可能性がないとも言い切れません。
例えば、宝くじが単なる「運」だとすれば、商業出版での印税生活は「実力」と「運」のダブルの要素が必要になります。正確な確率は出せませんが“期待してはいけない”という点で同じくらいです。ただし、本を出版した時点では、宝くじよりも可能性は感じるかもしれません。
商業出版することのメリットとは?
根本的な話になりますが、商業出版のメリットは「印税ではない」と思ってください。ビジネス面で言えば「ブランディング」につながったり、あなたの知識や経験を広く伝える手段として活用できるものです。それが悩める読者の手助けや後押しになることもあるでしょう。
一般的に出版することで、著者と読者がつながるチャンスが生まれます。それが商業ルート、つまり商業出版であれば「より多くの読者」が視野に入るわけです。そのつながりは印税という金銭的な魅力以上のものに変わる可能性もあります。